食用油の劣化と酸素(その4)
今回は「酸価」と酸素の関係についてのお話です。
食用油脂の劣化と酸素(その1)から(その3)については、以下にリンクを張りますので、どうぞご覧ください。
「酸価」はトリグリセライドの高温と水分による単純なエステル加水分解により、遊離脂肪酸が生じ上昇する値で、フライ油などの劣化指標として用いられています。
そのため、「酸素」とは関係がないように思われますが、実は関連性があることが示唆されています。
具体的には、低酸素下でのフライモデル試験系において、油脂の酸価が上昇しにくかったことが報告されています。【1】
フライモデル試験系とは、油200 gを500 mL三角フラスコに入れ、180℃、30時間ブロックヒーターを用いて、持続的に水噴霧(0.3 mL/min)加熱します。そして、三角フラスコに吹き入れるガスの総流量を3 L/minとし、空気ガスへの窒素ガスの混入によりフラスコ内の酸素濃度を2、4、10、20%に調整し加熱した試験系です。
報告では、加熱油の酸価は酸素濃度に応じて増加し、酸素濃度10%での30時間加熱時に酸価約2.5と、弁当およびそうざいの衛生規範(注:2021年6月廃止)における使用限界とほぼ同値を示しました。
また、酸素濃度が2%の場合は酸価約0.2、酸素濃度が20%の場合は酸価約5.5を示しました。
これらの試験結果から、酸価は従来言われてきたような、高温と水分による単純なエステル加水分解の指標ではなく、初期の酸化中間体や活性化した酸素分子が促進的に働いてはじめて上昇するフライ油の酸化的劣化指標の一つであると考えられます。
この試験は、フライのモデル系であるため、実際のフライで同様の結果がどのように現れるのか興味のあるところです。
参考文献【1】
日本調理科学会誌 Vol.50, No.6, 239~244 (2017)