食用油の劣化と酸素(その3)
食用油脂や食品に含まれる油脂の劣化を抑えるには、酸素との接触をいかに抑えるかが重要です。
前のコラム「食用油の劣化と酸素(その1)」では包装容器内の酸素濃度を制御することへの劣化への影響を述べました。
同じくコラム「食用油の劣化と酸素(その2)」では包装容器内ヘッドスペースの脱酸素効果についてお話をしました。
今回は、食用油脂自体に含まれる酸素の劣化への影響について述べてみたいと思います。
食用油脂自体にはどれくらいの酸素が溶解するかご存知でしょうか?
文献によりますとその飽和溶存酸素量はキャノーラ油で0℃、1気圧のデータですが24.3 mL/L-oil、つまり2.4vol%最大で溶解します。[1]
つまり、油脂と空気の接触表面のみならず、空気に存在する酸素を油脂が取り込み、そして不飽和脂肪酸と反応を起こすという仕組みがあります。
実際の試験例を下図(4図)に示します。
この試験はキャノーラ油と、キャノーラ油に消泡剤として使用される食品添加物のシリコーン(ジメチルシロキサン)が100ppm※になるように含有させた油脂(シリコーン含有キャノーラ油)を用いて実施したものです。そして、これらの油脂表面と空気が常に接触する環境に置き、その室温(room temp.)および60℃における溶存酸素量と過酸化物価の経時変化を調べたものです。[1]
(※シリコーンは急性毒性、慢性毒性、一般生化学試験等の試験で安全性が確認され、 食品・添加物等の規格基準(厚生省告示第370号)では0.050g/kg(50ppm)を上限として、消泡目的に限り使用が認められています。 また、業務用の油脂製品においてのみ、実用的には1~3ppmの添加が適当とされています。[2])
シリコーンは消泡作用の他にも油脂表面に存在し、空気からの酸素との接触を抑制しているとされ、実際に油脂に対して劣化抑制機能を有します。
図. 油脂中溶存酸素量とシリコーンの有無および温度による自動酸化への影響[3]
図の内の左上図、Relative oxygen content(%)(相対酸素含有率)では100%のラインが先ほどお話した飽和溶存酸素量である24.3mL/L-oil(2.4vol%)に相当し、その結果はほぼ2日目で飽和酸素濃度近くまで達して平衡状態になっていることがわかります。つまり、酸素は油脂中に速やかに吸収されていきます。
図の内の左下図、Peroxide value(meq/kg)(過酸化物価)で見る劣化の経時変化については、キャノーラ油とシリコーン含有キャノーラ油共にその劣化は少なく、大きな差は見られませんが、少し過酷な条件である60℃では状況が変わってきます。
図の内の右上図では60℃下におけるRelative oxygen content(%)の経時変化を見ると、キャノーラ油とシリコーン含有キャノーラ油共に減少し、特にシリコーン含有キャノーラ油の減少が比較して大きくなっています。
これは、酸化による酸素消費によって油脂中の溶存酸素量が減少していることを意味しています。そして、シリコーン含有キャノーラ油は油脂表面に存在するシリコーンによって、空気からの酸素供給が抑制されているため、シリコーンを含有しない油脂よりも溶存酸素量が少なくなるといえます。
図中の右下図では溶存酸素量の低減による劣化抑制の効果を見ることができます。シリコーン含有キャノーラ油がキャノーラ油よりも、有意に過酸化物価の上昇が抑えられています。
このように、油脂中の溶存酸素を低減することも劣化防止という観点から重要になってきます。
その溶存酸素の低減の方法としては、窒素など不活性ガスの接触・吹き込み(バブリング)による置換や、減圧下における脱気などがあります。
関連コラム:「酸化した食用油脂の毒性と品質指標」へ
参考文献
[1] 戸谷永生「油中溶存酸素量と油脂の酸化に関する研究」杉山産業化学研究所 平成26年(2014)研究助成報告書p34-41
[2] 湯木悦二「フライ油の問題点とその対策」日本油化学会誌, 第28巻, 第10号, p736, (1979)
引用文献
[3] 戸谷永生「油中溶存酸素量と油脂の酸化に関する研究」杉山産業化学研究所 平成26年(2014)研究助成報告書p34-41, Fig.2A, Fig.2B