油の劣化指標「酸価(AV)」は「遊離脂肪酸含量」を表す指標でよいのか?

酸価(AV; acid value )は非常によく用いられている油の劣化指標で、例えばフライ油の交換指標として酸価2.5が示されています[1]。

日本油化学会制定・基準油脂分析試験法には、「試料1g中に含まれている遊離脂肪酸を中和するのに要する水酸化カリウムのmg数」と定義されているところ、酸価の測定原理は中和反応であって、酸性物質である遊離脂肪酸を中和するのに必要なアルカリの量であると理解することができます。

ところが、そこに酸価値の全ては遊離脂肪酸によるものであるのか?という疑問が潜在的に存在していました。

例えば、酢やレモン果汁を含む食品から得られた脂質(油)の酸価は不自然に高い値を示すことは経験的に知っているところでした。

また、大豆レシチン(りん脂質)の酸価は20~25くらいなのですが、これを遊離脂肪酸含量%に換算するよく知られた式「遊離脂肪酸FFA%=係数0.5036×酸価AV」で計算すると10.1~12.6%の遊離脂肪酸含量となります。レシチンにはそんなに遊離脂肪酸が多いのかとにわかに信じがたい値です。

前でも述べましたが、酸価はアルカリによる中和反応ですので当然、遊離脂肪酸以外の酸性物質があると、それを遊離脂肪酸として表す側面があるのです。

その疑問に対して最近、注目すべき説が唱えられました[2]。それは、

  • 炭素数9のジカルボン酸であるアゼライン酸から構成されるグリセロールエステルであって、そのアゼライン酸を含むトリアシルグリセロール(トリグリセライド)が酸化の過程で生じ、酸性物質として酸価にカウントされていると考えられること。
  • 菜種油を使用した油温180℃でのフライドポテト調理試験において、3日目調理後の油を分析したところ、0.28酸価値において前述のアゼライン酸を含むトリアシルグリセロール由来の酸価は0.10、遊離脂肪酸由来の酸価は0.05であり、その他の酸性物質が酸価値に影響を与えていること。

が報告されています。

元々、酸価=遊離脂肪酸といわれてきた中で、基本的な考え方を見直すきっかけとなるかも知れません。

これまでも、私は一つの指標だけではなく、二つの指標を用いた評価が、評価の客観性からみて好ましいと述べてきました。二つ目の指標とは、過酸化物価、カルボニル価や極性化合物などがあげられます。

フライ油であれば、極性化合物(polar compounds; PC)がヨーロッパ各国で廃油基準として用いられていますので適しているかも知れません。

酸価は日本ではメインで使用されている油劣化の化学的指標であるので、今後も活用し続けることとなりますが、その値の本質を知っておくのも大切だと思います。

【参考文献】

[1] 小規模な惣菜工場におけるHACCPの考え方を取り入れた衛生管理のための手引き書p24(厚生労働省ホームページ)
[2] Oleoscience Vol.23, No.8, p460-462 (2023)

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