【解説】脂質酸化酵素リポキシゲナーゼ

脂質酸化酵素であるリポキシゲナーゼは、動物から植物、真菌類に至るまで幅広く存在する酵素です。EC 1.13.11 に属するジオキシゲナーゼであり、多くの植物不飽和脂肪酸の特定のメチレンから水素原子を立体特異的に引き抜くと共役ジエンが形成され、続く酸素分子の付加によって脂肪酸ヒドロペルオキシド(過酸化ラジカル)の生成を促進します1)

植物性食品に含まれる脂肪酸のうちリポキシゲナーゼの主要な基質は、リノール酸とリノレン酸です。植物リポキシゲナーゼはリノール酸とリノレン酸に酸素分子を付加して、リノール酸9-ヒドロペルオキシド、リノール酸13-ヒドロペルオキシド、リノレン酸9-ヒドロペルオキシド、リノレン酸13-ヒドロペルオキシド生成します。9-ヒドロペルオキシドと13-ヒドロペルオキシドの生成比率は、酵素の種類によって異なり、また、脂質と遊離脂肪酸を基質としますが、基質親和性は酵素の種類によっても異なります2)

大豆製品から生じた「青臭さ」は、このリポキシゲナーゼにより生じた過酸化脂質の二次生成物であるヘキサナールが主要因です。

一方で、大豆粉は、小麦生地のカロテノイドを漂白したり、弾力性を調整したりするのに用いられていますが、これもリポキシゲナーゼの触媒作用によるものです。例えば、製パンの際に、大豆粉を生地に加えることにより、脂肪酸ヒドロペルオキシドを生成させて、製品に含まれるカロテノイドなどの色素を漂白することで、パンの色を白くすることができます。また、麺を製造するときに、大豆粉を生地に加えると、脂肪酸ヒドロペルオキシドがグルテニンタンパク質のシステイン残基のチオール基の酸化を促進し、グルテニンタンパク質間のジスルフィド結合が促進されて、麺の弾力性が高まります。

他方で、大豆、大麦、米のリポキシゲナーゼ欠失品種があり、大豆のリポキシゲナーゼ欠失品種より製造した豆乳や豆腐の香味の改善ができることが示されています。また、リポキシゲナーゼ欠失大麦の麦芽から醸造したビールは、泡持ちと香味耐久性が向上することが知られています2)

このように、リポキシゲナーゼは、アルデヒド類の生成によって香りなどに対し、ネガティブな影響を与える一方で、食品加工や品質の向上などでポジティブな効果もある重要な酵素の一つです。

参考文献

1)阿部智子「食品加工におけるリポキシゲナーゼの活用」生物工学 第96巻 第12号(2018)

2)黒田久夫「植物性食品のおいしさと脂質酸化酵素」東京家政学院大学紀要 第61号 2021年

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