パーム油と藻とDHAと
パーム油については3回にわたり弊所ホームページコラムで解説してきました。
パーム油のはなし その1(パーム油とは)
パーム油のはなし その2(環境問題)
パーム油のはなし その3(飽和脂肪酸)
今回はパーム油を搾油する際に発生するパーム廃液とその環境問題と、その廃液から藻の力でDHA(ドコサヘキサエン酸)を生産するという技術を紹介をしたいと思います。
パーム油はアブラヤシの房(バンチ)に入っているパームフルーツという実から圧搾法(圧力をかけて搾り取る)によって搾油されます。(詳しくは「パーム油のはなし その1」をご参照下さい。)
その搾油する工程ではパーム油原油以外に廃液が発生し、これが環境問題となっています。(関連コラム「パーム油のはなし その2」)
発生したパーム油廃液は、専用の池に流し込み、水に油が浮く性質を利用して上澄みを除去してから河川や海に放流しますが、この放流までにかかる日数は50日程度と長期間要します。
この廃液処理の過程で温室効果ガスである二酸化炭素やメタンガスや、オゾン層破壊物質である亜酸化窒素が発生し、パーム油の世界的な需要の高まりの裏で深刻な環境問題が指摘されています。
このパーム油廃液問題に取り組んでいる茨城県つくば市を拠点とするMoBiolというスタートアップ企業のお話になります。
この問題を解決するために利用したのが「藻」です。
同社は筑波大学の藻類バイオマス・エネルギーシステム開発研究センターでセンター長を務める渡邉信教授の見出した藻類を特殊な方法でパーム油廃液に投入することで、その藻類がパーム油廃液を栄養素として取り込んでDHAを排出するというものです。
この藻類によるパーム油廃液の処理時間はたった2~4日で、専用池を使った処理方法に比べてオゾン層破壊物質を産出しないほか、処理時間は大幅に短縮されることから、環境問題を解決することができ、非常に有用なDHAをも生産できるという技術です。
知的財産面でこの技術を見てみますと特許出願、国際特許出願がされており、以下の特許文献を確認することができます。
特開2020-054391
WO/2020/026794
WO/2020/036216
同社はすでにテストプラントを建設しており、2年以内にDHAの供給元として事業を展開する計画を進め、商用培養プラントおよび抽出プラントを設置、事業化を急ピッチで進める予定とのことです。
藻類は、実際には1000万種類以上にいると推定されるほど多種多様であり、長年の藻類の研究により廃液処理に適した藻類を見出すことができたとのことです。
藻には世界の環境問題を解決する能力があり、その能力を引き出すためには研究者、技術者の知識、経験、努力という「必須栄養素」が必要なのだ、ということを改めて思い知らされます。
今後の進展に期待をしつつ注目をしていきたいと思います。
[参考文献]
TechCrunch Japanホームページ「環境破壊のパーム油廃液から人間の必須栄養素DHAを産出、筑波大の研究から生まれたMoBiolのテクノロジー」https://jp.techcrunch.com/2020/04/14/mobiol/ ダウンロード日2020.4.23
Photo : Chokniti KhongchumによるPixabayからの画像