食用油脂の生産技術(3)油糧種子「パームオイル」編
パームオイルは世界生産量1位の食用油脂です。脂肪酸組成ではパルミチン酸(C16:0)とオレイン酸(C18:1)が概ね50%、50%で構成され、この脂肪酸組成からもわかるように酸化安定性が良好な油脂です。
また、常温で半固体であるパームオイルは冷却法(自然分別)により、その液体部であるパームオレインと固体部であるパームステアリンに分別され、それぞれの用途に適した多く製品に利用されています。
分別をしないで精製したパームオイルを使用することもありますが、分別されたオイルの使用では、例えばパームオレインでは業務用フライオイルとしての利用が特に知られています。
本編ではその「パームとそのオイル」について概説します。
①パームフルーツの構造(パームフルーツの果肉、外皮とカーネル(核))
パームフルーツは油ヤシの果実で、バンチと呼ばれる大きな房に直径3~5センチほどの小さな果実が多量に実ります。この果実は3つの主要部分に分かれます。
果肉:外側のオレンジ色の部分の果肉で、多くの油を含んでいます。ここから「パームオイル」が採油されます。
外皮:果肉の外側にある、比較的硬い外皮です。
カーネル(核):パームフルーツ内部の中心部(白色)にあり、硬い殻(茶色)に覆われています。ここから「パームカーネル(核)オイル」が採油されます。
②パーム油の主要産地
パーム油の最大の生産国はインドネシアとマレーシアで、これらの国は世界のパーム油生産の85%以上を占めています。他の生産国には、タイ、ナイジェリア、コロンビアなどがあります。
③パームフルーツの油分
パームフルーツの果肉は45-50%の油分を含んでいます。一方、カーネル(核)は50%程度の油分を含んでおり、それぞれの部分から異なる油が圧搾(抽出)した後、精製されます。
④パーム油の土地生産性(大豆油と菜種油との比較)
パーム油は他の植物油と比較して非常に高い土地生産性を持っています。例えば:
パーム油:1ヘクタールあたり約4トン
大豆油:1ヘクタールあたり約0.4トン
菜種油:1ヘクタールあたり約0.7トン
このように、パーム油は同じ面積から大豆油や菜種油よりもはるかに多くの油を生産できます。これが世界生産量1位の理由のひとつになります。
⑤パーム油の特性と用途
<パームオイル>
パームオイルは、常温では半固体の性質を持つ植物油で、比較的高い融点(約35℃)を持っています。そのため、常温では固体と液体の中間の状態になります(半固体)。また、パーム油は酸化安定性が高く、長期保存が可能です。
以下はパームオイルの主な特性と用途です。
食品:
・マーガリンやバターの代替品として使用。滑らかさと口どけの良さを提供します。
・揚げ物油として使用。高温での安定性があり、酸化しにくい特性から、フライドポテトや揚げ物の調理に適しています。
・ベーカリー製品(パン、ケーキ、クッキーなど)に利用。クリーミーな食感を与え、保存性を高めます。
・インスタント食品の原料として使用。麺類やスナック菓子の製造において、風味と保存性を提供します。
化粧品および個人用ケア製品:
・石鹸やシャンプーの原料として使用。泡立ちが良く、皮膚や髪に対する優れた洗浄効果を持ちます。
・クリームやローションに利用。保湿性が高く、肌を柔らかく保つ効果があります。
・リップバームや口紅の成分として使用。柔らかさと持続性を提供します。
工業用途:
・洗剤の原料として使用。効果的な洗浄力を持ち、油脂の除去に役立ちます。
・バイオディーゼルの製造に利用。環境に優しい代替燃料として注目されています。
<パームオレイン>
パームオレインは、パーム油を精製・分別する過程で得られる液体部です。常温でも液体のまま保たれ、酸化安定性が高いのが特徴です。以下はパームオレインの主な特性と用途です。
食品:
・揚げ物油として使用。酸化安定性が高いため、繰り返し使用しても劣化しにくい特性があります。
・サラダ油として使用。軽い風味で、サラダドレッシングや調理に適しています。
化粧品:
・保湿クリームやボディーローションに利用。肌に潤いを与え、柔らかさを保ちます。
⑥パーム油の生産方法(農園から搾油、精製、分別について)
収穫:
収穫されたパームフルーツを実らせたバンチを速やかに次の熱処理工程へと運搬されます。
蒸煮:
収穫したバンチを蒸して(熱処理)果肉を柔らかくするとともに、リパーゼなどの内在酵素を失活させパームオイル品質の劣化を防ぎます。その後、解砕機によりバンチとパームフルーツが分離され、回収したパームフルーツよりオイルを圧搾します。
搾油:
果肉をエキスペラと呼ばれる連続式圧搾機で圧搾してパームオイルを搾油します。圧搾したミール(粕)に含まれるカーネル(核)は、その中から回収され、別途乾燥させてから圧搾もしくは溶剤抽出により生産します。
精製:
搾油されたオイル(原油・CPO)はカロテンなどの色素成分や遊離脂肪酸、臭気が含まれる状態で、これらを除去する目的に精製されます。まず水洗・乾燥された原油に活性白土を加えて脱色を行い、次に高真空水蒸気蒸留(例として240℃、0.7KPa以下、40~90分)処理である脱臭を施し、精製オイルとなります。この精製のことをRBD(Refined, Bleached and Deodorized)と呼び、一般的な植物油の精製(NBD・Neutralized, Bleached and Deodorized)で行われる遊離脂肪酸を除去する脱酸工程がないのが特徴です。パームオイルの遊離脂肪酸除去は、上記の脱臭工程で留去成分として除去されますが、脱酸処理を行うプロセスも存在します。
分別:
パーム油を冷却分別(自然分別)して、液体部であるパームオレインと固体部のパームステアリンなどの物性が異なる成分に分けられます。パームオレインでは、さらに冷却分別を行うことにより低温下での濁りや固化を改善した二段分別オレイン(スーパーオレイン)があります。
⑦パーム生産における環境問題
パーム油生産は、環境問題を引き起こすことがあります。代表的な問題として以下があげられます。
・森林伐採:新しい農地を作るために熱帯雨林が伐採され、生態系に大きな影響を及ぼします。
・住民の土地争い:土地利用の変更に伴い、地元住民との土地争いが発生することがあります。
・野生動物の生息地の喪失:森林伐採により、オランウータンやスマトラトラなどの絶滅危惧種の生息地が失われることがあります。
これらの問題に対処するため、持続可能なパーム油生産を目指すRSPO(持続可能なパーム油のための円卓会議・Roundtable on Sustainable Palm Oil)などの国際的な取り組みが進められ、このRSPOの定める原則や基準のもとで生産され認証されたパームオイルが「認証パームオイル(油)」です。
⑧まとめ
パームオイルは、その高い生産性と多用途性から、食品や工業製品に広く利用されています。しかし、その生産過程における環境問題への対策が重要です。持続可能なパーム油の生産を推進することで、環境保護と経済発展の両立を図る必要があります。